ポンダン物語集〜韓国の民話伝承神話

韓国の民話・伝承・神話を現代風にアレンジして紹介しています。
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借り物の福(上) 


 ポンダン、ポンダン。

 むかしむかしあるところに、チャボクという木こりが住んでいました。
 きれいで器量良しの嫁と仲睦まじく暮らしていましたが、家はとても貧乏でした。背負子いっぱいの薪を市場で売って日銭を稼いでいましたが、それだけでは日々の食べ物にも困るありさまでした。
 ある日、チャボクは決心しました。
 いつまでもこんな暮らしを続けるわけにはいかない。これからは背負子二つ分の薪をとって売るようにしよう。
 次の日、まだニワトリも鳴かない時間に家を出て、日がすっかり西山に沈むまで働きました。こうして、背負子二つ分の薪を、なんとか集めることができました。
 チャボクが山のような薪を庭に下ろすのを見て、嫁は驚いて言いました。
「あら、おまえさま。薪を二束もどうやって作ったんですか。さぞかし大変だったでしょう。ほんとうにご苦労様でした」
チャボクは、手ぬぐいで額の汗を拭きながら言いました。
「大丈夫さ。いまに見てろ。大金持ちにはなれなくても、飯の心配はないようにするから」
夫の言葉を聞いた嫁は、涙を流しながら夫の手を握り締めました。
 その夜、とても疲れていたチャボクは、晩御飯を食べるとすぐに寝どこに入りました。
 翌日、明け方に起きたチャボクは、市に出すための薪をとりに庭へ出ました。ところが、ふたつあるはずの薪の束がひとつしかありません。
「おい、おまえや。庭に置いておいた薪の束がひとつ見えないぞ」
「おかしいですね。私は触ってませんよ」
「あんな大きなものがなくなるわけないしなぁ」
「そうですよ。置き間違えたんじゃありませんか」
「そうだよな。もう一度探してみるか」
チャボクは、庭の隅々まで探しましたが、消えた薪は見つかりませんでした。こんな辺鄙なところ、夜中に人が来るわけもないし。地に沈んだか、天に昇ったか、とにかく不思議でなりませんでした。
 チャボクは、残っていたひと束を市で売り、また山に入って背負子二つ分の薪を集め、庭に置きました。
 次の日の明け方、庭に出てみると、また薪がひと束なくなっていました。次の日も、その次の日も、そのまた次の日も、薪がひと束消えました。夜のうちに泥棒が盗んで行ったに違いない。そう思ったチャボクは、妻に言いました。
「盗っ人はオレが捕まえてやる。オレが束の中に入って隠れるから、おまえが外から縄で縛ってくれ」
心配して反対する妻を振り切り、チャボクは薪の中に隠れました。
 そして、その日の夜、待ちくたびれたチャボクが居眠りをしていると、ガサッと音がして何者かが背負子を持ち上げました。
「やっぱり来たな。このままじっとしていて、アジトで捕まえてやる」
そうつぶやいたチャボクでしたが、なにか変な感じがします。薪の束は、ユッサユッサ揺れながら前に進むのではなく、煙のようにユラユラと昇っているようです。なんだ、なんだ、これはいったいどういうことだ。チャボクは背筋が寒くなり、体が固まったまま動かなくなってしまいました。


 小一時間たったころ、薪の動きが急に止まり、老人のダミ声が聞えてきました。
「薪はそこへ下ろしておきなさい」
薪を背負っていた者が、ていねいな返事をしました。
「はい、わかりました」
「ご苦労だった。もう下がって休んでよいぞ」
「はい、ありがとうございます」
「今日もひと束だけ持ってきたのか」
「はい、そうでございます」
「それにしても愚かな人間だ。自分の福がいくらあるのかも知らずに頑張りおって。福が少ないんだから、どんなに努力してもムダなだけのに」
「あの野郎、相当疲れてますから、もう何日ももたないと思います。天神様」
天神という言葉を聞いて、チャボクは飛び上がらんばかりに驚きました。
「じゃぁ、ここは天宮か。あのしゃがれた声の主は、天神様ということか」
とんでもないところに来てしまったと後悔したチャボクでしたが、このまま帰るわけにはいきません。
「ことわざでも《虎に捕まっても、気を失わなければ生きのびられる》と言うじゃないか。手ぶらでは戻れないんだ。ここは頑張りどころだ」
そう自分を励まし、勇気を搾り出しました。
 天神様の家来が薪の縄を解こうとしたとき、ピョンと勢いよく飛び出し、天神様の前にひざまづいて言いました。
「天神様、どうかお許しください」
驚いた天神様は、口を開けたまま繋ぐ言葉がありませんでしたが、目の前にいるのが人間だとわかると、口を動かしはじめました。
「いったい、そなたは何者じゃ」
チャボクが、顔を地面に擦りつけて言いました。
「わたくしは、この薪の持ち主でございます。ずっと貧乏な暮らしをしてきたので、少しでも豊かになろうと思い、毎日薪を二束集めることにしたのでございます。それなのに、神様ともあろうお方が、どうして貧乏人から薪を取り上げるのですか。日々の食べ物にも困るような人生でございます。どうか薪を持っていかないでください」
天神様が、チャボクの後頭部を見つめながら言いました。
「そなたの気持ちはよくわかる。わかるが、それがそなたの福なのじゃから、どうすることもできぬのじゃ」
チャボクは顔を上げ、天神様の目を見て尋ねました。
「天神様は、さきほど福とおっしゃいましたが、それはどういう意味でしょうか。薪と福、とても関係があるようには思えません」
天神様が思案の末に言いました。
「わかった。わかりやすく説明してやるから、ワシについてきなさい」


 天神様は、宮殿の裏庭へ歩いていきました。チャボクは、迷子にならないように必死で追いかけました。天神様は、大きな蔵の前で足を止め、蔵に向かって言いました。
「ワシじゃ、いますぐ戸を開けなさい」
すると、ガシッガシッという音がして、蔵の中から番人らしき男が出てきました。
「これはこれは天神様。いまごろ何の御用でしょうか」
「すまないが、この男に蔵の中を見せてやってくれないか」
「それはかまいませんが、こいつは生身の人間ではありませんか」
「まぁ固いことを言うな。今日は特別じゃ」
「天神様がそうおっしゃるなら。どうぞお入りください」
天神様が振り返って言いました。
「チャボクよ。蔵の中へ入りなさい」
チャボクは、天神様のうしろについて戸口をくぐりました。
 蔵の天井には、数え切れないほどの袋がぶら下がっていました。大人の頭ほどの袋があるかとおもえば、赤ちゃんの拳ほどの袋もあり、その大きさと形は実にさまざまでした。よく見ると、袋にはすべて名前が書いてありました。
 天神様が、天井を見上げて言いました。
「これがまさに人間たちの福袋なのじゃ。袋に入っている福の分だけ、人は幸せに生きられるようになっておる」
 チャボクは、一所懸命に自分の袋を探しました。一時間以上、目を皿のようにして天井を見回し、東の隅にぶらさがっている自分の福袋を、やっとのことで見つけました。しかしそれは、赤ちゃんの指先ほどの大きさしかない、小さな小さな袋でした。チャボクは情けなくて涙が止まりませんでした。あまりにもみすぼらしい自分の福袋を、とても恨めしく思いました。
 天神様が声をかけました。
「これで、ワシが嫌がらせでやっているわけではないことが、わかったじゃろ。薪を盗られてしまうのも、おぬしの運命なんじゃ。金儲けは諦めて、薪一束で我慢しなさい」
しかし、チャボクの返事はありませんでした。あまりに悲しい自分の運命を知って、茫然自失となり、天神様の声が聞えていなかったのです。
たまりかねた天神様が、大声で呼びました。
「おい、チャボク、チャボク。しっかりしなさい」
その声を聞いて、チャボクは我に返りました。
 ちょうどそのとき、ひときわ大きな袋が目に入りました。
「天神様、あれは誰のモノでございますか。福があんなにいっぱい入った袋なんて、ほかには見当たりません」
「おぉ、あれか。あの袋はソクスンのものじゃな。福をたくさん受ける運命の者で、もうすぐ生まれるはずじゃ」
それを聞いたチャボクは、天神様の袖にすがりつき、泣きながら助けを求めました。
「天神様、どうかわたくしの願いをお聞き入れください。ソクスンなる者が誰かは存じませぬが、まだ世に生まれ出ていないというなら、あの福袋をしばしお貸し願えないでしょうか」
 意外なことを頼まれた天神様は、しばらく戸惑った表情をしていましたが、チャボクのことを哀れに思い、助けてあげることに決めました。
「ハッ、ハッ、ハッ。言われてみれば確かにそうじゃな。しばらく貸すだけなら大丈夫じゃろ。よし、そなたの言うとおりにしてやろう」
チャボクはうれし涙を流しながら、感謝の言葉を述べました。
「本当でございますか。ありがとうございます。このご恩は一生忘れません」
「そのかわり、ソクスンが7歳になるまでに、福をすべて返すんじゃぞ。その福はもともとそなたのものではないのじゃからのぉ」
チャボクは、何度も何度もお辞儀をして言いました。
「肝に命じます。天神様」
 こうして、チャボクは、天神様からソクスンの福を貸してもらうことになりました。

[01/02] 民話 | TB(0) | CM(0)
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